バスにはシートベルトが必要?購入時にチェックすべき点を紹介
車に乗車しているときは、ドライバーから同乗者まで必ずシートベルトを着用する義務がありますが、「大勢の人が乗車するバスでもシートベルトは必要なの?」と疑問に感じた方も多いでしょう。結論から言うと、バスの使い方によってはシートベルトが必要なケースもあります。
そのため、バスを購入する際は用途に応じて、シートベルトが装備されている車両を選ばなければなりません。今回は、シートベルトが必要なバスの種類と、不要なバスの種類、着用義務を怠った場合のリスクについてまとめました。
シートベルトが必要なバスの種類

シートベルトの装着が義務づけられているバスの種類は、以下2つです。
- 高速バス
- 貸切バス
これら2つのバスは高速道路を走行することを前提としています。道路運送車両の保安基準第22条の3では、シートベルト(座席ベルト)の取付義務がある車両の一覧が掲載されていますが、上記2つの車両は「専ら乗用の用に供する自動車であって、乗車定員10人以上のもの」に該当します。この種別の自動車では、前向き座席には第二種座席ベルト、それ以外の座席には第一種座席ベルトまたは第二種座席ベルトの装着が義務づけられています。[注1]
なお、同じ乗車定員10人以上のバスであり、かつ車両総重量が3.5トン以下の場合も全座席にシートベルを取り付ける義務があります。ただし、告示で定める基準(道路運送車両の保安基準の細目を定める告示第28条)に適合する前向き座席であれば、第一種座席ベルトでも問題ありません。[注1][注2]
なお、第一種座席ベルトとは腰の左右に渡す2点式ベルト、第二種座席ベルトとは、2点式の機能に加え、肩からお腹にかけて斜めに渡すベルトも付いた3点式ベルトを指します。[注3]
[注1] 国土交通省「道路運送車両の保安基準」P1
[注2] 国土交通省「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」P1
[注3] 国土交通省 「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 別途32」P1
高速バス・貸切バスはシートベルトの着用を促す取り組みが強化されている
高速道路を走行する高速バスや貸切バスについては、国土交通省よりシートベルトの着用徹底が呼びかけられています。その背景には、2016年に発生した長野県北佐久郡軽井沢町の国道18号線碓氷バイパスにおいて発生した貸切バスの重大事故があります。
2016年1月15日、碓氷バイパスにおいて、貸切バスが反対車線を越えて道路右側に転落し、乗員・乗客合わせて15人が亡くなり、乗客26人が重軽傷を負うという痛ましい事故がありました。[注1]
当該事故の被害が甚大なものになった理由について、当時、貸切バス等において乗客がシートベルトを着用していないことが多いという実態が指摘されました。警察庁の交通事故統計によると、シートベルトを着用しないと高速道路では約9倍も命の危険性が高まるというデータが報告されていることから、国土交通省は各地方運輸局宛に「貸切バスのシートベルト着用徹底について」という通知を出し、以下の事項について徹底することを呼びかけています。[注1]
- シートベルトを乗客が常時着用できる状態(ベルトを座席に埋没させない等)にしておくこと
- 乗客へのシートベルトの着用の注意喚起が記載されているリーフレットを座席ポケット等に備え付けること
- 車内放送等により、乗客にシートベルト着用を促すこと
- 発車前に乗客のシートベルト着用状況を目視などによって確認すること
- 乗務員に対して、適正にシートベルトを着用するよう指導すること
[注1] 国土交通省「貸切バスのシートベルトの着用徹底について」
シートベルトが不要なバスの種類

一方、全席へのシートベルト取付が義務化されていないバスもあります。前項で説明したシートベルトの取付義務の基準によると、「専ら乗用の用途に使われ、乗車定員が10人以上あり、高速道路等などを運行しない自動車」の場合、シートベルトの取付が義務付けられるのは運転席とその横の座席のみとなっています。[注1]
つまり、高速道路を走行しない乗車定員10人以上のバス(路線バスなど)であれば、必ずしもシートベルトは必要ないということになります。また、国土交通省が策定した「幼児専用車の車両安全性向上のためのガイドライン」では、シートベルトの装備について「幼児専用車に装備される幼児用座席に適した座席ベルトが開発されるまで、装備を求めるものではない」と明言しています。[注2]
その理由は、以下3つの懸念点があるためです。
- 幼児専用車を利用する幼児は体格差が大きいため、一定の座席ベルトの設定では適切な使用が難しく、誤った着用をするとかえって事故発生時の被害が大きくなる可能性があること
- 車両火災などの緊急事態が発生して幼児を避難させなければならない場合、幼児が自らシートベルトを外せるような構造になっていなければ、避難が遅れる可能性があること
- 現状、上記のような課題を解決できる幼児専用車の座席ベルトが存在していないこと
以上の理由から、保育園バスや幼稚園バスなどの幼児専用車では、シートベルトの取付や装着は義務づけられていません。ただし、今後幼児専用車両に装備される幼児用座席ベルトが開発された場合は義務化される可能性があります。
[注1] 国土交通省「道路運送車両の保安基準」P1
[注2] 国土交通省「幼児専用車の車両安全性向上のためのガイドライン」P14
一定以上の規模のバスには警報装置も備える必要あり
乗車定員が10人以上で、車両総重量が3.5トンを超えるバスの場合は、シートベルトの取付だけでなく、運転者席およびその横の座席に、シートベルトが装着されていないことを知らせる警報装置の装着も義務付けられています。[注1]
なお、警報装置は告示で定める基準に適合する装置でなければならないため、上記の条件に該当するバスを購入する場合は、適切な警報装置が搭載されているかどうかも忘れずにチェックしましょう。
[注1] 国土交通省「道路運送車両の保安基準」P1
路線バスにシートベルトの全席取付義務がない理由
高速道路を運行しないことを前提とした路線バス等に、シートベルトの全席取付が義務化されていない理由には、以下のようなものが挙げられます。
- 乗車下車が頻繁にあること
- 立席定員があること
- 高速道路を運行しないぶん事故リスクが低いと想定されること
路線バスのように短時間で乗り降りする乗客が多いバスの場合、装着を義務化すると乗降をスムーズに行えなくなってしまい、運行計画に支障を来す原因となります。
また、路線バスには座席だけでなく、つり革につかまって乗車する立席定員も設けられています。立っている乗客は当然シートベルトを着用できないため、路線バスでは必ずしもベルトの装着を義務づけていないようです。
さらに、路線バスは高速道路の走行を行わないぶん、高速道路を運行する高速バスや貸切バスに比べると事故のリスクが少ないと考えられているのも要因の一つでしょう。ただし、路線バスであっても急停車するリスクはゼロではありません。そのため、路線バスの運行中は車内放送等で、座席に深く腰かけることや、走行中の座席移動を行わないことなどを注意喚起することが推奨されています。
シートベルトの着用義務を怠るとどうなる?
バスでのシートベルトの着用義務を怠ると、以下2つのリスクがあります。
- 運転者に対して行政処分が科せられる
- 事故発生時の被害が拡大する恐れがある
高速バスや貸切バスでは、全席シートベルトの着用が義務づけられています。もし乗員・乗客のうち一人でも着用を怠っていた場合、座席ベルト装着義務違反と見なされ、運転者に対して行政処分の基礎点数が1点加算されることになります。[注1]
基礎点数は3年(※)にわたって累積され、行政処分の前歴がない人であっても、累積点数が6点に達した場合は免許停止30日の処分を受けることになります。[注2][注3]
免許停止期間中はバスの運転ができなくなるため、業務としてバスの運行を行っている場合は事業に支障を来す可能性があります。また、シートベルトをきちんと着用していないと、万一事故が発生した場合の被害が拡大する恐れがあります。
過去の統計によると、高速道路でシートベルトを着用していなかった場合の致死率は、着用していた場合の約9倍に及ぶという結果も報告されています。実際、過去には甚大な被害を出したバス事故も報告されているため、高速道路を利用するバスを運行するのなら、シートベルトの取付はもちろん、乗客に対して装着を徹底させる工夫も行わなければならないでしょう。
※1年間無事故・無違反の場合や、2年間にわたって無事故・無違反・無処分で1点~3点の違反行為をし、その後3カ月以上無事故・無違反で経過したときは累積されません。
[注1] 警視庁「交通違反の点数一覧表」
[注2] 警視庁「点数計算の優遇」
[注3] 警視庁「行政処分基準点数」
高速バスや貸切バスはシートベルト取付・装着は必須!
高速道路を走行することを前提とした高速バスや貸切バスには、全席シートベルトの取付および装着が義務づけられています。装着を怠ると、バスの運転者(バス会社)に対して行政処分が科される他、事故が発生したときの被害が大きくなる可能性大です。
そのため、業務で高速バスや貸切バスを購入する際は、シートベルトが正しく取り付けられているか必ず確認しましょう。特に、後部座席でのシートベルト装着義務化を定めた改正道路交通法(2008年6月1日)以前に製造されたバスは、後部座席にシートベルトが取り付けられていない可能性もあるため、中古バスを購入する際は十分な注意が必要です。


